原著
1)新潟県立大学人間生活学部健康栄養学科
2)株式会社ブルボン健康科学研究所
〒950-8680
新潟県新潟市東区海老ヶ瀬471
新潟県立大学人間生活学部健康栄養学科
田村朝子
TEL:025-270-0366
FAX:025-270-0366
E-mail:asako-t@unii.ac.jp
受付日:2020年3月11日
採択日:2020年8月5日
高アミロース米は食後血糖値の上昇を抑える効果がある一方で良食味(粘り、柔らかさ)に影響するアミロペクチンが少ないため食味が低くなる。そこで、高アミロース米「越のかおり(以下K)」の血糖上昇抑制効果をそのままに食味を向上させた白飯レシピの開発を目的とし、食後血糖値、テクスチャーおよび食味をコシヒカリと比較した。
テクスチャーでは、Kは硬さ、凝集性、付着性のいずれもコシヒカリと異なる特性を示したが、棒寒天またはトレハロ―ス+棒寒天の添加により、コシヒカリと同程度のテクスチャーが得られた。食後30分の血糖値においてK+棒寒天はコシヒカリと比較し有意に低く、Glycemic Index (GI)も61と低い数値を示した。官能評価では、味と総合評価においてKに比較してK+棒寒天が有意に高い評点となった。このことから、越のかおりに棒寒天を添加すると、食後の血糖値の上昇を抑え、食味が向上するといえる。
High-amylose rice has the effect of suppressing the elevation of blood glucose levels after meals but decreases taste because it contains low levels of amylopectin, which affects stickiness and softness. We therefore aimed to develop a method of cooking the high-amylose rice variety ‘Koshinokaori’ (K) to improve its taste while maintaining its ability to suppress post-prandial blood glucose elevation and compared the post-prandial blood glucose levels, texture, taste of K against those of Koshihikari.
Although K showed different hardness, cohesiveness and adhesiveness properties from Koshihikari, the addition of stick agar-agar or trehalose plus stick agar-agar gave the same texture as Koshihikari. The blood glucose level at 30 minutes after the meal was significantly lower in K plus stick agar-agar compared to Koshihikari, and the Glycemic Index (GI) was also lower at 61. In a sensory evaluation, K plus stick agar-agar scored significantly higher than K in taste and overall evaluation. From these results, we can conclude that adding stick agar-agar to K improves its taste while maintaining its ability to suppress post-prandial blood glucose elevation.
高アミロース米、越のかおり、食味、テクスチャー、食後血糖上昇抑制
米のデンプンはアミロースとアミロペクチンからなり、アミロース含量によって5~13%程度のものを低アミロース米、15~20%を中アミロース米、25%以上のものを高アミロース米として分類1)している。日本で日常的に食されるコシヒカリ等の米はアミロース含量が20%未満の中アミロース米で、海外、特に東南アジアで食されるものはアミロース含量が25%以上の高アミロース米が多い。高アミロース米の多くは、コシヒカリ等の米に比べ粒径が細長く、硬く、粘りのない米飯に仕上がる2)。そのため、カレーやサラダなど、他の食品と合わせて食されることが多い。一方、日本では、米飯を主食として単独で食すことから、適度な粘りと弾力のある米飯がおいしいとされ、好まれている。
米のデンプンは、その構造によってアミロースとアミロペクチンに分類される。デンプンの分子構造は米飯の食味に強く関係しており、アミロース含量が低く、アミロペクチンの長鎖長区分の割合が高く、平均単位鎖長の小さい品種ほど、粘りのある食味を呈する3)。そのため、日本ではアミロース含量の低い米が嗜好的に好まれ、多く流通しているといえる。
デンプンは体内で、唾液や膵液に含まれる消化酵素であるアミラーゼにより加水分解されることによって消化され、小腸から吸収されて血糖として全身に運ばれてエネルギー源として利用される。デンプンに含まれるアミロースの割合が高いほど消化が穏やかになることが報告されており、その理由の1つとして、デンプンの長鎖が水素結合によりヘリックス構造を形成し、消化酵素のアクセシビリティを低下させる4)ためと考えられている。そのため、アミロース含量の高い米を食べた場合、通常の米を食べた場合と比較して、食後の血糖値の上昇が穏やかで血糖上昇抑制効果があること5)-8)が報告されている。
高アミロース米品種「越のかおり」は、北陸農業試験場(現 農研機構中央農業研究センター北陸研究拠点)によって米消費拡大を目指し、製麺用として開発され、2011年に品種登録された。この越のかおりは、「キヌヒカリ」にインド原産の在来種「Surjamukhi」をかけ合わせたもので、アミロース含量が33%と非常に高いことを特徴9)とする。「越のかおり」についてもヒトを対象とした食後血糖応答評価が実施されており、コシヒカリと比較し緩やかな食後血糖応答を示すことが報告されている10)ことから、糖尿病予防や糖尿病の食事療法に非常に有効な食材であるといえる。さらに、越のかおりは製麺に適した米であるため、米麺等も食事に取り入れられるようになり、糖尿病予防・治療食のレパートリーが広がるといった利点も考えられる。
しかし、前述したように、アミロース含量の高い米は、炊飯すると粘りが少なくパラパラで硬く、食味評価の低い米飯となる。そのため硬さを改善する方法として加水量を増やし、軟らかく炊き上げる方法が報告2)11)されているが、食味を向上させる炊飯方法の報告はなされていない。また、硬さを改善した米飯の血糖上昇抑制効果の検証は、森らが包装米飯で検証した10)もののみである。
糖尿病診療ガイドライン12)では、炭水化物は指示エネルギー量の50%以上60%未満とされており、炭水化物の極端な制限は推奨されていないため、一定量を主食となる米やパン等から摂取する必要がある。しかし、食味の良くない米を主食とした場合、食欲が増加するとは言い難く、それによって食事摂取量が減少したり、あるいはたんぱく質や脂質の過剰摂取につながり、適正なエネルギー量を確保することが難しくなる。さらに、食事の満足度が低下し、QOLの低下へとつながるおそれもある。高アミロース米「越のかおり」を主食として食味良く喫食することができれば、良好な糖尿病予防や食事療法につながると考えられる。
そこで、本研究では、食味評価の低い高アミロース米「越のかおり」の、最大の特徴である血糖上昇抑制効果をそのままに、一方で食味を向上させた「おいしい」米飯レシピを開発することを目的とし、開発したレシピの食後血糖値の変化、テクスチャーおよび官能評価による食味を、魚沼産コシヒカリと比較した。
試料米として、高アミロース米 越のかおり(平成28年新潟県上越市産)を用い、対照試料米としてコシヒカリ(平成28年新潟県魚沼市産)を用いた。
試料米10 gをビーカーに入れ、20℃の蒸留水40 ml を加え、ガラス棒で30回撹拌後、茶こし(φ7.5 cm,40メッシュ)で水切りし、新たに20℃の蒸留水又は食酢水(3%又は5%)30 mlを加え、直ちに20℃に設定したウォーターバス(TBS221SA, ㈱ADVANTEC)内で60分浸漬した。浸漬後、茶こしで水切りし、米粒表面の水分をふき取り、米の重量を測定し、以下の式で吸水率を算出した2)。また、ノギスで米粒の長径および短径を測定した。なお、粒径測定は、浸漬前の米粒についても測定し、浸漬前後の粒径の変化を以下の式により増加率として長径および短径それぞれ算出した。さらに、長径と短径の比率を粒径比として以下の式により算出した。
吸水率(%)=(浸漬後重量-浸漬前重量)/浸漬前重量×100
増加率(%)=(浸漬後粒径-浸漬前粒径)/浸漬前粒径×100
粒径比(R)=長径/短径
基本となる炊飯方法を以下の通りとした。すなわち、越のかおり320 gを洗米後、ザルに上げて15分水切りし、洗米前の重量の1.5倍又は2.0倍の水を加えて60分浸漬させ、炊飯器(IH炊飯ジャーNP-GG05,象印マホービン㈱)の白米コース(標準)で炊飯した。越のかおり白米の食味を向上させるため、浸漬時にトレハロース(㈱林原)、棒寒天(北原産業㈱)、粉寒天(伊那食品工業㈱)を加え炊飯した。棒寒天は、あらかじめ水に60分膨潤させ、ちぎった状態のものを浸漬時に加えた。なお、対照試料米(コシヒカリ)は、洗米前の重量に対して1.5倍の水を加えて越のかおりの基本炊飯方法と同様の方法で炊飯した。
(1)で炊飯した米飯のテクスチャーをクリープメータ(RE-3305,㈱山電)で測定した。炊飯直後の米飯をステンレスシャーレ(φ40mm×h15mm)に充填し、円筒形シリコンプランジャー(φ20mm)を用い、測定はロードセル2 kg、圧縮速度1mm/sec、クリアランス5mmに設定し、2回圧縮測定を行った。測定で得られたテクスチャー曲線より、硬さ(応力)、凝集性、付着性を算出した。
健康な成人女性4名(年齢:21.3±0.5歳、身長:158.5±4.4 cm、体重:50.8±5.6 kg、BMI:20.1±1.2 kg/m2、空腹時血糖75.2±4.9 mg/dl)を被験者として試験を行った。
試験食として、①2.0倍加水越のかおり(K)、②5%トレハロース添加2.0倍加水越のかおり(K+トレハ)、③0.8%棒寒天添加2.0倍加水越のかおり(K+寒天)、④5%トレハロースおよび0.8%棒寒天添加2.0倍加水越のかおり(K+トレハ+寒天)、⑤1.5倍加水コシヒカリを用いた。各試験食の摂取量は、糖質50g相当量に調整した。なお、トレハロースおよび棒寒天は、洗米前の米重量に対して添加し、3.(1)と同様の方法で炊飯した。
試験は5群5期の無作為化クロスオーバー法で実施し、ウォッシュアウトは1週間以上とした。割付は介入に参加しない第三者が無作為に実施した。被験者には試験前日21時から試験当日の朝まで水以外の食物摂取を控えてもらった。また、試験前日は過激な運動を控え、試験当日は試験終了まで、できる限り座位安静を保持してもらった。試験食は15分以内に白湯または水150mlとともに完食してもらい、試験食摂取後は、試験終了まで食物摂取を控えてもらった。
血糖値の測定は、試験食を摂取する直前の血糖値を空腹時血糖値(0分値)とし、試験食摂取後30、60、90、120分の合計5回、指先を穿刺し、自己血糖測定器(メディセーフミニGR-102,テルモ㈱)を用いて測定した。
血糖上昇曲線下面積(Incremental area under the curve:IAUC)は、空腹時から試験食摂取後120分までの血糖増分を台形公式により算出した13)。Glycemic Index(GI)値は、1.5倍加水コシヒカリのIAUCを100とし、各試験食のIAUCをコシヒカリのIAUCで除し、100を掛けて算出した。
食後血糖測定に用いた5種類の試験食について、健康な成人女性21名(21.6±0.5歳)を対象に、実施した。試験食は同時に提供し、硬さ、粘り、味(甘さ)、総合評価の4項目について、それぞれ好ましい順に5段階(+2、+1、0、-1、-2)で評価してもらった。
全ての測定データは平均値±標準誤差で示した。血糖値の経時的推移における試料間の比較については二元配置分散分析を行い、試験食と時間について主効果と交互作用を解析した。交互作用が認められた場合は、各採血ポイントにおける試験食間の比較を、コシヒカリを対照としたDunnett法にて検定した。IAUCおよびGIについては、一元配置分散分析の後、Dunnett法にてコシヒカリとの差異を検定した。粒径、粒径比、増加率、吸水率、テクスチャーおよび官能評価結果については、一元配置分散分析の後、Tukey法にてサンプル間の差異を検定した。添加物の影響を評価するため、基本的には群間すべての比較が可能なTukey法を採用したが、血糖動態については臨床的な意味合いを重視し、日常的に食されている一般的な米飯(コシヒカリ)との比較をすることを目的にDunnett法を採用した。粒径の浸漬前後の比較については対応のあるt検定により有意性を解析した。
統計処理は、GraphPad Prism 7(GraphPad Software Inc., CA, USA)を用い、p値が0.05未満(p<0.05)のものを統計的に有意とした。
血糖測定の被験者および官能評価のパネルに対して、研究目的、研究内容、倫理的配慮について書面を渡して説明し、インフォームドコンセントを得たのち試験を実施した。なお、本研究は、新潟県立大学倫理委員会の承認(承認番号:1603)を得た後、臨床試験登録システムUMIN-CTRに登録(UMIN000027598)し、ヘルシンキ宣言の倫理的原則を遵守して実施した。
結果を表1に示した。浸漬前の粒径については、3%食酢の浸漬に用いた越のかおりの長径がコシヒカリよりも有意に小さく、短径は他の3種よりも有意に小さかった。一方、水に60分浸漬すると、すべての浸漬条件において、長径および短径ともに有意に粒径が増加した。また、浸漬水を食酢水に変更すると、食酢の濃度が高いほど越のかおりの短径は小さくなる傾向が認められ、水条件と比較し5%食酢で有意に小さくなった。また、5%食酢条件では、水、3%食酢と比較し、短径の増加率も有意に低値となった。吸水率については、コシヒカリに比べ越のかおりで有意に低くなった。また、越のかおりにおいて浸漬水を食酢水に変更すると食酢濃度が高いほど吸水率は上昇する傾向が認められ、水条件と比較し、5%食酢条件では有意に高くなった。
表1 米の浸漬による粒径と吸水率の比較
データは平均値±標準誤差で示した(粒径及び粒径比:n=30、吸水率:n=6-10)。
浸漬前後の有意差は#で示した(p<0.05, paired t-test)。
列内の有意差は異なるアルファベット(a, b, c)で示した(p<0.05, Tukey)。
1)増加率(%):(浸漬後粒径-浸漬前粒径)/浸漬前粒径×100
2)粒径比:長径/短径
3)吸水率(%):(浸漬後重量-浸漬前重量)/浸漬前重量×100
浸漬前米粒水分率(%):越のかおり 9.60±0.18、コシヒカリ 9.60±0.14
各レシピのテクスチャー測定結果を表2に示した。
硬さにおいては、コシヒカリに比較して1.5倍加水越のかおりが有意に高くなった。しかし、2.0倍に加水量を増やした条件では、3%トレハロース添加を除き、コシヒカリと有意差がなくなり、同程度の硬さになった。
表2 越のかおり米飯の炊飯時添加物の違いによるテクスチャーの比較
データは平均値±標準誤差で示した(n=7-10)。
列内の有意差は異なるアルファベット(a, b, c, d)で示した(p<0.05, Tukey)。
1)越のかおり×1.5:1.5倍加水越のかおり
2)越のかおり×2.0:2.0倍加水越のかおり(以下K)
3)K+3%トレハ:2.0倍加水越のかおり+米重量の3%トレハロース添加
4)K+5%トレハ:2.0倍加水越のかおり+米重量の5%トレハロース添加
5)K+10%トレハ:2.0倍加水越のかおり+米重量の10%トレハロース添加
6)K+0.8%粉寒天:2.0倍加水越のかおり+米重量の0.8%粉寒天添加
7)K+0.8%棒寒天:2.0倍加水越のかおり+米重量の0.8%棒寒天添加
8)K+5%トレハ+棒寒天:2.0倍加水越のかおり+米重量の5%トレハロース及び0.8%棒寒天添加
凝集性においては、1.5倍加水越のかおりが他のいずれの条件よりも有意に低くなった。トレハロース添加、粉寒天添加およびトレハロースと棒寒天を添加した条件においては、コシヒカリと同程度の凝集性を示した。
付着性においては、コシヒカリと比較し越のかおりで低値となったが、棒寒天を加えた2条件についてはコシヒカリと同程度の付着性を示した。
テクスチャーの3要素において、越のかおりに5%トレハロースおよび0.8%棒寒天を添加するとコシヒカリに最も近いテクスチャーになった。
試験食摂取による血糖値の経時的推移を図1に、IAUCおよびGI値の比較結果を表3にそれぞれ示した。
図1 血糖値の経時的推移
データは平均値±標準誤差で示した(n=4)。
2元配置分散分析結果:試験食 p<0.0001、時間 p=0.0310、試験食×時間 p=0.0272
食後30分におけるコシヒカリとの有意差:#K+トレハ、†K+寒天(p<0.05, Dunnett)
食後60分におけるコシヒカリとの有意差:*K、‡K+トレハ+寒天(p<0.05, Dunnett)
表3 血糖動態パラメーター
データは平均値±標準誤差で示した(n=4)。p値はコシヒカリとの比較(Dunnett)。
1)K+トレハ:2.0倍加水越のかおり+米重量の5%トレハロース添加
2)K+寒天:2.0倍加水越のかおり+米重量の0.8%棒寒天添加
3)K+トレハ+寒天:2.0倍加水越のかおり+米重量の5%トレハロース及び0.8%棒寒天添加
いずれの試験食も食後速やかに血糖値が上昇し、摂取後30分で最大値を示した。コシヒカリと比較し、摂取後30分ではK+寒天で有意に低値となり、K+トレハでは有意に高値となった。また、摂取後60分では、コシヒカリに対してKおよびK+トレハ+寒天が有意に低値となった。
IAUCにおいては、コシヒカリに比較してKが有意に低く、K+寒天では低値傾向(p=0.0858)が認められた。GI値は、Kは45となり、コシヒカリよりも有意に低値となった。また、K+寒天は61となり、コシヒカリと比較し低値傾向(p=0.0858)が認められた。
5種類の試験食に対する官能評価結果を表4に示した。評点が高いほど評価が高くなる。硬さ、粘り、味、総合評価のいずれの項目においても、コシヒカリが他の4試験食に比較して有意に高い評点となり、食味がよかったと評価された。越のかおりの食味改善効果について、硬さについては添加物の影響が認められなかったが、粘りはトレハロースと寒天を添加することで有意に改善した。また、味については寒天を添加することで有意に改善し、総合評価については寒天またはトレハロースと寒天の添加により有意に改善した。
表4 米飯の官能評価の比較
データは平均値±標準誤差で示した(n=21)。
評価項目別の試料間の有意差は異なるアルファベット(a, b, c)で示した(p<0.05, Tukey)。
1)K+トレハ:2.0倍加水越のかおり+米重量の5%トレハロース添加
2)K+寒天:2.0倍加水越のかおり+米重量の0.8%棒寒天添加
3)K+トレハ+寒天:2.0倍加水越のかおり+米重量の5%トレハロース及び0.8%棒寒天添加
本研究では、高アミロース米「越のかおり」の食味を向上させ、且つ血糖上昇抑制効果のある「おいしい」米飯レシピを開発することを目的とし、開発したレシピ米飯の食後血糖値の変化、テクスチャーおよび食味を明らかにした。テクスチャーや食味の改善効果については、おいしい米飯として評価の高いコシヒカリを指標に比較検討した。
まず、テクスチャーについては、越のかおりは、そのアミロース含量の高さからコシヒカリのような中アミロース米と比較して粘りが少なくパラパラで硬い米飯となることから、既報2)11)のように加水量を2.0倍に増加させて硬さの改善を試みた。その結果、1.5倍加水に比べて硬さが低下し、コシヒカリと有意差がない硬さに仕上がった(表2)。また粘りや口中のベタつき感と相関がある14)とされる付着性についても3倍以上に上昇させることができた(表2)。しかし、この付着性の上昇は、加水した水が米粒の中心部まで吸水されず、表層のすぐ下に留まって膨潤したまま炊飯されたことによるものと考えられる。表1において、60分浸漬後の吸水率がコシヒカリに比べて14.4%と低いにもかかわらず、短径が有意に大きく膨潤していることから吸水が中心部まで達していないことがわかる。さらに、炊き上がった米飯の米粒表面に張りがなく、ぶよぶよと柔らかい状態であった。この柔らかく仕上がった表面を、プランジャーで押しつぶしてテクスチャーを測定したため、付着性が上昇したといえる。したがって、表面に張りをもたせつつ柔らかい米飯に仕上げるためには、浸漬時に米粒の中心部までしっかりと吸水させる必要があることが示唆された。そこで、浸漬水に食酢を添加したところ濃度依存的に吸水率が上昇し、短径の膨張を抑えることが可能になった。Ohishiらは0.2mol/L酢酸溶液に浸漬すると米粒からの溶出たんぱく質が増加15)すること、伊藤らは米粒表層のたんぱく質が溶出し、水が米の組織内に取り込まれやすい状態になるため吸水率が上昇16)したことを報告している。したがって、本研究においても食酢の添加により吸水率が上昇したものと考えられる。しかし、食酢を添加した状態で炊飯すると米飯の粘りや付着性が増加する16)ことが報告されているが、炊き上がった米飯に食酢の匂いが残ることから、炊飯前に米に付着した食酢を洗い流す必要があった。本研究では、添加物を加えるのみで通常炊飯と同様に簡便に炊飯ができ、且つおいしい白飯となるレシピの開発を目指していることから、食酢添加による食味改善効果については別途検討することとし、本研究における越のかおりの基本炊飯については、浸漬水は水のみとし、加水量を米重量の2.0倍、浸漬時間を60分とすることとした(以下K)。
米飯の性状やテクスチャーの改善には、酒やみりんなどの調味料、油、寒天などの添加17)-19)や炊飯する溶液のpH調整20)が有効であることが報告されている。中でも竹炭添加により古米臭の低減21)、硬さが改善22)すること、食酢添加により硬さの低下23)、付着性の向上16)が、トレハロース添加により粘り、付着性が向上する24)ことが明らかになっている。本研究においては、越のかおりをコシヒカリと同等の硬さに低下させ、付着性を向上させ、さらに血糖上昇抑制効果を維持できる添加物を予備実験によって様々検討した。その結果、竹炭、酒、みりんでは硬さは改善するものの、付着性の改善効果が小さかった。そのため予備実験で硬さ、付着性の改善効果が高かったトレハロースと寒天を用いて詳細に検討することとした。その結果、1.5倍加水越のかおりに比べ、5%トレハロースおよび0.8%棒寒天添加で硬さが低下し、凝集性と付着性が上昇し、コシヒカリに近いテクスチャーが得られ、これらを合わせて添加するとさらにコシヒカリに近いテクスチャーになった(表2)。平田はコシヒカリのテクスチャーに及ぼすトレハロースの添加効果は濃度依存的に向上するわけではなく、3%が最大で、5%および10%では無添加と同等のテクスチャーに低下する24)ため、添加は2~4%が適切と報告している。越のかおりを試料として用いた本研究では、米飯のテクスチャー改善に5%が最も適していた。これは、越のかおりとコシヒカリとのデンプンの構造およびアミロース含量の違いによるものと考えられる。トレハロースは、グルコース2分子がα-1,1グリコシド結合した非還元性二糖類で、他の二糖類に比べ保水力が強いことから、デンプンの老化抑制や耐冷凍性24)-26)を有することが報告されている。しかし、トレハロースの機能性については、現時点では現象として多く報告されているのみで、そのメカニズムが明確に解明されたわけではないことから、本研究においてもトレハロース添加による付着性の増加については、米飯表面の水分保持が無添加に比較して5%で最も向上したものと推測される。
一方、寒天の添加については、粉寒天を使用した場合、無添加に比べ硬く、付着性の改善効果が低い19)27)ことが報告されている。しかし、加水量を増加させると同量の寒天添加量であっても付着性が向上する19)ことも報告されており、本研究における粉寒天添加で付着性が向上した結果を裏付けるものといえる。本研究では、棒寒天についても検討した。同等の硬さの角寒天ゲルと粉寒天ゲルを比較した場合、角寒天ゲルの付着性の方が高くなる28)との報告がある。また、血糖上昇抑制や便秘改善などを期待して膨潤させた棒寒天や糸寒天を添加して炊飯する「寒天ごはん」レシピ等が一般的に紹介されていることから検討することとした。単粒種のジャポニカ米では、炊飯過程での胚乳中ポリガラクチュロナーゼ活性と米飯表面の硬さは負の相関関係にあり、ペクチン分解率および付着性は正の相関関係にあること、そして、ポリガラクチュロナーゼ活性、ペクチン分解率および付着性は良食味米として高く評価されるコシヒカリにおいて最も高い29)ことが報告されている。本研究において、無添加の1.5倍加水およびKでは付着性が低く、ペクチンの分解が低いことが推測されるが、寒天添加により寒天の主成分であるアガロペクチンが米飯表面に粘性を付与27)30)したため付着性が向上したと考えられる。また、粉寒天に比べ棒寒天の表面積が広いため棒寒天添加で付着性の増加が大きかったと考えられる。これらのことから、越のかおりにトレハロースと棒寒天を加えることにより、米飯表面の保水性が増大することに加えアガロペクチンによる粘性が付与され、柔らかく付着性の高いテクスチャーになったといえる。
機器測定により、テクスチャーをコシヒカリと同等に調製できることが明らかになった一方で、官能評価ではコシヒカリに比べ有意に低い評価となった。しかし、Kに比較してK+寒天、K+トレハ+寒天で味および総合評価で有意に高い評価が得られ、官能的に食味が向上することが明らかになった。Kに寒天やトレハロースを添加しても、米飯の色や香り、外観にKと違いはなく、被験者からは、試食前には見分けがつかなかったとのコメントがあった。今後は、炊飯機器や添加物の添加量やタイミングについてさらに検討し、官能的な評価の向上を目指したいと考えている。
最後に、越のかおりの血糖上昇抑制効果について考察する。海野らは、1.4倍加水コシヒカリに比較して1.6倍加水高アミロース米が血糖値の上昇が穏やか9)であることを、また、Trinidadらは、アミロース含量が異なる数種類の米に加水量を調整して物性を揃え、血糖応答を比較したところ、加水量が多い高アミロース米の血糖上昇が穏やかであった31)ことを報告している。本研究においても、1.5倍加水コシヒカリに比較してKのIAUCとGIは有意に低く、K+寒天でも低値傾向を認めた。また、血糖値の経時的推移において、食後30分ではK+寒天が、食後60分ではKおよびK+トレハ+寒天が、コシヒカリと比較し有意に低値を示した。
寒天の添加について、森高らは無添加に比較して0.8%、1.7%、2.5%と濃度依存的に血糖上昇抑制効果が高くなった27)と報告している。したがって、本研究においても寒天の添加量を増やすことによってさらなる効果が期待できると考えられるが、添加量の増加によって米飯の硬さが上昇する27)ことから、添加量は0.8%程度が適切と考えられる。
上記のことから、越のかおりは加水量を多くしても血糖値の上昇を穏やかにすることが可能で、さらにこれに棒寒天を添加しても無添加の場合と同様に血糖値の上昇を穏やかにできることが明らかになった。
一方、トレハロース添加においては、米飯摂取後30分の血糖値がコシヒカリと比較し有意に高値となり、期待していた血糖上昇抑制効果は認められなかった。ヒト経口負荷試験においては、グルコースに比べトレハロースでは血糖値の上昇を穏やかにし、インスリン値を低く保つ32)ことが報告されている。また、通常の食事に1日当たり10g添加して12週間摂取することで耐糖能が改善する33)ことも報告されている。一方で、トレハロースの利用能には個人差があることが知られており、トレハラーゼ活性の高い被験者の場合、摂取後30分で急速に血糖値が上昇することが報告されている34)。本研究に参加した被験者のトレハラーゼ活性が高かった可能性は否定できず、さらに、トレハロース添加米飯の血糖上昇抑制効果を検証した報告がないことから、これについては再度、詳細に検討したいと考えている。
GI値は、コシヒカリを100とした場合、Kが45、寒天添加が61となった。アミロース含量が24.9%のホシニシキは86.2 35)、アミロース含量が25%で1.6倍加水の雪の穂は50 8)と報告されている。越のかおりはアミロース含量が33%と、高アミロース米の中でも含量が高い品種である。そのためGI値が低くなることは予想されたが、2.0倍と加水量を高くしてもそれが維持されることが本研究において明らかになったといえる。
本研究の限界は、越のかおりの食後血糖上昇抑制効果を、「自己血糖測定器」を使用して、指先から毛細血管の血液を採取して検証したことと、その検証をわずか4名の健康な大学生によって実施したことにある。自己血糖測定器は、糖尿病患者が血糖値の自己管理用に汎用されているものであるが、医療機関において静脈血で測定される血糖値とは値が異なることが知られている。そのため、今後は、越のかおりの血糖上昇抑制効果をより詳細に明らかにするため、静脈血での血糖測定を、幅広い年代の多くの被験者によって明らかにしたいと考えている。
高アミロース米「越のかおり」の血糖上昇抑制効果をそのままに食味を向上させた白飯レシピの開発を目的とし、食後血糖値、テクスチャーおよび食味をコシヒカリと比較した。
テクスチャーでは、越のかおりは加水量を2倍(以下K)にすると硬さがコシヒカリと同程度まで低下した。また棒寒天添加により付着性が改善し、さらにトレハロースを添加することで、硬さ、凝集性、付着性のいずれにおいてもコシヒカリと同程度の物性となった。食後血糖値の変化では、食後30分の血糖値においてはK+棒寒天が有意に低く、食後60分ではKおよびK+トレハ+棒寒天が有意に低値となった。また、IAUCとGIは、コシヒカリと比較しKが有意に低く、K+棒寒天では低値傾向を認めた。官能評価では、味と総合評価においてKに比較してK+棒寒天が有意に高い評点となった。このことから、越のかおりに棒寒天を添加すると、食後の血糖値の上昇を抑えたまま、食味の向上が可能であることが明らかになった。
本研究の一部は平成29年度に機能性農産物活用促進協議会(会長 澤田清一)が農林水産省「国産農産物消費拡大対策事業補助金」より交付された補助金により行ったものです。ここに付記して謝意を表します。
また、本研究の遂行にあたり、実験にご協力くださった新潟県立大学人間生活学部学生 饗場由希さん、亀岡遥さん、川名伽奈さん、羽滝麻里さん、宮澤陽さん、血糖測定および官能評価にご協力くださった新潟県立大学の学生の皆さまに深く感謝いたします。
なお、本文の要旨は第21回日本病態栄養学会年次学術集会(2018年1月12~14日、国立京都国際会館)において発表した。
利益相反:申告すべきものなし。
●文献